バルクセールは事業再生への近道(?)

 能登半島地震、日航機と海保機との衝突事故、ショッキングな出来事で2024年が始まりました。年初にあたり、中小企業の社長さん方には追い打ちをかけるような話題で恐縮です。2008年のリーマンショックを機に翌2009年暮れに施行された金融円滑化法は、当初20113月までの時限立法でした。20113月に発生した東日本大震災もあって同法は2回延長され20133月末に終了しました。しかし、政府は金融機関に対して、法終了後においても「金融円滑化法の精神」の維持継続を要請してきました。そして、2020年初のコロナ禍。需要が蒸発した中小企業の資金繰り支援策として実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)を同年3月に日本公庫や商工中金など政府系金融機関が取り扱いを始め、5月には民間金融機関でも受け付けることになりました。ゼロゼロ融資は、当初3年間利払い免除、元本返済も最長5年間猶予する制度であり、合計利用件数は20229月末時点で約245万件、実行額は約43兆円にのぼります。2023年に入り返済猶予期間が終わる企業が続出し、本年4月にかけて返済はピークを迎えることになります。

 

 東京商工リサーチによれば、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産件数は上昇しており、20207月から202310月までの累計件数(負債額10百万円以上)は1,130件にのぼるとのこと。全国信用保証協会連合会によると、昨年4月~8月の代位弁済件数は16,891件と前年同期比62%増えたとのことです。会計検査院は、2022年度決算検査報告をもとにコロナ対策融資(日本公庫および商工中金)の検査結果を発表しました。不良債権額は約8,700億円と全体の6%に達するとのこと。民間金融機関取り扱い分も同様の傾向であるならば、ゼロゼロ融資全体の不良債権額は単純計算で2兆円超になる可能性があります。日本銀行が昨年10月にまとめた『金融システムレポート』でも「コロナ禍前から経営が悪化していた企業の赤字が拡大し、手許資金の減少に歯止めがかからない」と中小企業の苦境を報じています。

 

 金融庁は昨年1127日、全国銀行協会など金融機関の代表者と中小企業の資金繰りについて意見交換会を開きました。その際に、同庁は金融機関向けの監督指針を本年春に改正し、中小企業の事業再生へと支援の軸を移す旨を発表しています。これまでコロナ禍に伴う経済活動の停滞で影響を受けた企業を支えるため金融機関に新規の融資や返済猶予など柔軟に応じるよう要請してきました。新たな監督指針では、「資金繰り支援にとどまらない経営改善支援や事業再生支援等について、先延ばしすることなく実施する必要がある」と明記するとのこと。監督指針の改正を受け、地域金融機関は「一定程度の損失」を覚悟したうえで抜本策に舵を切ることが求められることでしょう。

 

 債務者によっては金融機関による債権放棄もあり得るでしょうが、金融機関全体として「一定程度の損失」の具体策として考えられる手法のひとつが、抱える不良債権処理策としてのバルクセールです。バルクとはバラ積み船の船荷のことであり、転じて「ひとまとめにする、一括する」の意から、金融機関が保有する多数の不良債権を投資家など第3者に「まとめ売り」することです。たとえば、100債務者に対する債権総額1,000百万円を50百万円で売却し、950百万円の債権売却損を計上することによって一括オフバランス化する方法です。無論、債務者(借主)の返済義務は債権者(金融機関から投資家へ)が変わろうと全額返済の義務を負っていることに変化はありません。そして、バルクセールが実施されると、債務者に対する返済交渉は投資家から委託を受けた債権回収会社(「サービサー」と言われます。)が行います。サービサーは19992月に施行された債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)に基づき法務大臣の許可を受けた民間の債権管理回収専門業者です。過酷な取立て(暴力的、違法)の恐れは通常ありません。どうか、ご安心ください。

 

 仮に貴社がバルクセール対象先とされたとしても決してあきらめないでください。前記のとおり、債権者が変わっても債務者の返済義務は変わりません。しかし、バルクセールのスキームを確認してみてください。先の例を個々の債務者に分解するなら、たとえば10百万円の借入債務が500千円で売買されたとも考えられます。債務者からすればサービサーに対し、返済額の減額(債務免除)を交渉する余地があるとも言えます。確たることは申し上げられませんが、事業再生への近道となるかも知れないですね。もちろん、サービサーは委託者(投資家)が金融機関からいくらで買い取ったのか開示することはありません。

 

ここで注意事項をひとつ。サービサーに対し、「どうせタダ同然の値段で買い取ったんだろう! そんなもの払えるか!!」との発言は厳禁です。真摯な対応こそが最善です。そして、もうひとつ付け加えるならば、金融機関からの1次譲渡先(その委託先であるサービサー)との交渉で最終決着を付けてください。1次譲渡先は金融機関として責任が持てる投資家です。しかし、状況次第で当該投資家は再度バルクセールに出す(2次バルク)こともあります。そうすると金融機関の目が届かないことは言うまでもありません。最終決着とは、借入のため当初金融機関に差し入れた証書(金銭消費貸借契約書)や手形(借入手形)を返してもらうことです。言うまでもないでしょうが。

 

 なお、バルクセールと直結はしないでしょうが東京金融取引所(TFX)は昨年末に「複数の金融機関が貸出債権を売買できるインフラをつくる」構想を発表しました。20254月の稼働を目指すとのことです。(道)