生産性の向上と労働力の移動について

 

中小企業庁から発表されている、「2023年版中小企業白書・小規模企業白書 概要」の冒頭には、以下のような記述があります。

 

・・・こうしたマクロ経済環境が激変する時代を乗り越えるため、中小企業・小規模事業者が、価格転嫁に加えて、「国内投資の拡大、イノベーションの加速、賃上げ・所得の向上の3つの好循環」を実現していくことが重要であることを示す。より具体的には、以下の内容を分析。

(1) 賃上げを促進する上では、価格転嫁と生産性向上が重要であること

(2) 物価高等のマクロ経済環境の変化を踏まえ、価格転嫁を取引慣行として定着させることが重要であること

(3) 生産性向上に向けては、GXDXといった構造変化も新たな挑戦の機会と捉えながら、投資の拡大やイノベーションの実現が重要であること・・・

 

1)には価格転嫁と生産性向上が重要であると述べられています。価格転嫁とは、生産性の低下を防ぐことに他なりません。

2)にも価格転嫁が出てきますが、価格転嫁して利幅を確保することは生産性の維持を図る上で重要です。

3GXDX、投資、イノベーションなどが生産性向上のための機会や手段として挙げられています。

 

1)(2)(3)すべてに生産性の向上が関わってきています。そこで、今回のブログでは、生産性を上げるためにはどのようにすればよいかを見て行きたいと思います。

 

労働生産性(従業員1人当たり粗付加価値額)は最も頻繁に用いられる生産性の指標です。通常、粗付加価値を従業者の人数で除した数値で評価します。この労働生産性を向上させるための方法を考えたいと思います。

粗付加価値を増やせば、労働生産性の分子の値が増加します。(なお、付加価値の計算方法には、大きく分けて2通りあります。控除法(中小企業庁方式は控除法)と加算法(日銀方式は加算法)です。今回は控除法を前提として考えてみたいと思います。)控除法による付加価値の計算式は、付加価値 = 売上高 - 外部購入費で、外部購入費は材料費、外注費、輸送運搬費などから成ります。付加価値を増やすには、売上高を増やし、外部購入費を減らす必要があります。販売促進で売上高(数量)を増やす取り組み、値上げをして利幅を増やす取り組み(価格転嫁もここに含まれます)、原価低減などで費用を減らす取り組みなどが付加価値の向上に効果があります。注意点として、売上高を増やすためにモノやサービスの、質を下げると、長期的には顧客離れなどのマイナスの影響が出る可能性がありますので、そういった事態は極力避けなければなりません。

一方、分母である、従業者の人数はどうでしょうか。機械化などで効率化して人数を減らすことにより、分母を小さくして生産性を上げることが考えられます。リーマンショック後、つい最近までは、雇用を維持拡大することが国としても重要な方針でした。設備投資をして余った人員を解雇するなどはタブー視される傾向がありました。しかしながら、昨今(2023年現在)の人手不足の状況、およびこれから数十年の人口減少の未来を鑑みるに、日本の国全体のことを考えれば、分母を小さくする付加価値の向上方法を推進していかなくてはならないと思います。生産現場やサービス現場で余剰となった人員は販売部門など他部門に配置転換することを考えましょう。配置転換以外の選択肢として、人手不足で困っている魅力的な他業種・職場もあるでしょう。経営者として従業員の雇用を守ることは何よりも大切です。私はこの点を、経営者の最も重要な使命と考えているほどです。ですが、人手不足で困っている業種があることも事実です。

 

まとめると、労働生産性を上げるには、売上や利益を増やすこと(分母)、効率化して従業者を減らすこと(分子)の両面が必要です。しかし、これはあくまで、経済をマクロの視点で見た場合の話であって、個々の企業の視点では、長い間苦楽をともにした従業員を簡単に削減することなどはできないのが人情ですよね。(T.T.